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家入 祐也講師、博士(工学)

ICTを使って観光ルートを設計

早稲田大学大学院情報生産システム研究科
家入 祐也講師、博士(工学)

新型コロナが5類に移行して以後、国内外の人流が活発化している。各地の観光地は活況だが、一方で特定の観光地が混雑するオーバーツーリズムが問題視されている。早稲田大学大学院情報生産システム研究科の家入祐也講師は、ICT(情報通信技術)を使って人流の調査や誘導を行う日本でも珍しい取り組みを全国で始めている。

●人の感情に着目した研究

 Q門司港地区でICTを用いた実証実験を行っています。
 家入 ウェアラブルデバイスを使って門司港の周遊調査を進めています。皮膚電気活動(EDA)データを活用して、新しい観光ルートを設計するのが目的です。観光は一種の劇場型体験であり、観光客の感動を演劇や映画のように設計することが求められます。観光という物語のピークをどこに持ってくるのかを踏まえた観光ルート設計という、観光客の感情に着目した研究を行っています。

Q同様の研究は全国で行われているのでしょうか。
 家入 観光学と呼ばれる分野は比較的若い学問ですが、今では欧米をはじめ世界中で進んでいます。私は東京都新宿区の商店街振興に関する研究から始め、京都市の街歩きアプリケーション開発なども行ってきました。北九州市では門司港のほか、アウトレットが開業した八幡東田地区での実証研究、また今後は北海道小樽市や静岡県熱海市でも同様のフィールド調査を予定しています。

Qどのような効果が期待されるのでしょうか。
 家入 私は英国のサリー大学で観光学と情報学の融合分野の研究に取り組みました。今は観光客の感情に着目した観光ルート設計システムの開発に取り組んでいますが、これが実現すれば観光業界に新風を吹き込むことができます。このように人の感情に着目して物語を設計するアプローチは、多様な分野に応用が期待されます。例えば、教育現場では効果的な講義設計に応用が考えられますし、工場やオフィスでは従業員の働き方設計にもつながるかもしれません。

研究の全体像(クリックで図を拡大)

●AR・VRを使った実証も

Q北九州学術研究都市ではどのような研究に取り組まれますか。
 家入 最近はデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されていますが、社会課題をICTで解決するためには、単に情報技術を実装するだけでは不十分です。これは、実社会は人が中心となって活動する複雑な場所ですし、さまざまな事柄が偶発的に重なりあって社会を形成しているからです。解決するためには社会科学の知見や社会システム工学などの技術と連携して、分野融合的なアプローチで臨む必要があります。研究室にはロボットも3Dプリンターもあり、これらをフィールド実証に利用しています。ほかにもAR(拡張現実)・VR(仮想現実)を使った実証も行っています。

 Q学生にはどんなことを訴えていますか。
 家入 私は感情のモデル化に取り組みたいと思っています。情報工学が専門ですが興味の対象は人にあります。人はそれぞれ感情を持っており、予想もつかない行動を取ります。地域のDX、コミュニティのDX、組織のDXを進める上では人への理解をベースにする必要がありますし、ICTの活用が社会に受け入れられるようなフレームワークを構築する必要もあります。学生には、自らの掲げる社会問題を、独自のアプローチで実証できるオリジナリティの高い研究ができると伝えています。北九州市は高い技術を持つ大企業や中小企業も多いですから、産学が連携して、地域振興を盛り上げていければうれしいです。





感動の定量化(クリックで図を拡大)

 【プロフィール】
 生まれも育ちも神奈川県だが、実父が福岡市出身のため九州には親近感があったという。人好きの明るい性格で、一人より皆で行動するのを好むとか。英国在留時代も地方に出かけるときはツアーに参加して見聞を広めた。趣味は中学時代から続けているテニスと旅行。独身のため、学会以外でも時間があれば旅に出る。九州は長崎県と宮崎県が未訪問のため、今からどこに行こうか楽しみにしている。1994年生まれ、神奈川県出身。

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