北九州市立大学情報システム工学科の藤本悠介准教授は、制御理論や機械学習を専門とする。制御とはシステムを自在にあやつる動作を指すが、自動車のブレーキ、エアコンの快適動作、エレベーターやロボットの滑らかな動きなど、世の中になくてはならない技術といえる。藤本准教授の研究は今の技術をさらに進め、数学的アプローチを深化させることで産業界の生産性向上に寄与しようと考えている。
―研究内容を教えて下さい。
藤本 データを活用し、システムを思い通りに制御する研究に取り組んでいます。対象を数学的に記述するモデルを求める方法と、データから直接制御器を設計する方法があります.特に前者については、最近は制御対象が複雑になりモデル化も難しくなっているため、事前知識を活用してする方法について検討しています。
―興味を持ったきっかけや、具体的な事例としてはどのようなものでしょうか。
藤本 子どもの頃はからくりに興味を持ち、学生時代は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型自動着陸実験「ALFLEX」をきっかけに機械などを自在に動かす、つまり「制御」することに興味の対象が移りました。ただ、私が考える制御は個別のシステムではなく、もう少し抽象的な対象にあります。例えば自動車の速度を時速50キロメートルにしたいと思った場合、現在の速度が目標速度よりも低ければアクセルを、高ければブレーキを踏みますが、同様の考え方はクーラーによる室温制御にも当てはまります。もう少し具体的に言えば、目標としている温度と現在の温度を比較し、そこから次の行動を決めているという点で同じ考え方であり、対象が異なっていても同じような方法で制御することが可能となります。これを発展させてさまざまな制御対象に対して統一的な議論を行うためには、抽象度を上げて数学的に対象を記述する必要があります。私の研究はこのような数学的に記述された対象に対して、データから適切な制御を獲得する方法の提案と、機械系におけるその有効性の検証です。
―研究成果が社会や地域にどのような影響を及ぼすとお考えですか。
藤本 モータをはじめとする機械系(ロボットハンドや重機)、空調、化学プロセス、電気など、それぞれの制御性能を高めることで生産性の向上につながれば良いと期待しています。北九州市は産業都市としての歴史があります。日本製鉄や安川電機といった日本を代表する企業も多く、中堅・中小企業のすそ野も広いですから、これら産業界との連携も今後は進めることができればありがたいとも考えています。
―学生にはどのような指導を行っていますか。
藤本 制御理論は思うように動かないこともあります。機械や技術は完全ではないのですが、それでも動かないよりは動いた方がよいので、学生にはパラメータ調整を自ら手がけさせており、ドローンを飛行させたり装置を駆動させたりしています。まずは理屈を作ろうと指導しています。
―北九州市や学研都市、大学への提言があれば教えて下さい。
藤本 本学は全国の公立大学の中では比較的恵まれた環境にあると思っています。ただやはり予算の拡充は必要です。ここで言う予算は単年度ではなく、安定的な拡充が重要です。学生が使用するパソコンや論文、図書の確保も研究や教育には必要です。共同研究費や科研費など、研究者が獲得できる予算はこれらの運営にかかる用途に使用できません。研究、教育には長い目で見た予算の拡充が望ましいと言えます。