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三宅 丈雄 教授  工学博士

イオン制御技術で社会課題解決に挑む

早稲田大学大学院 情報生産システム研究科
三宅 丈雄教授、工学博士

早稲田大学大学院の三宅丈雄教授は、バイオエレクトロニクスとイオニクスを融合した「バイオイオントロニクス」という新しい学術分野を、北九州学術研究都市で花開かせようとしている。すでにナノチューブ薄膜と呼ぶ新素材を開発し、再生医療に利用するナノ注射器を製造する大学発ベンチャーを立ち上げた。また新たに眼科向けの医療機器の事業化にも取り組むなど、三宅研究室は九州を代表するバイオ拠点に成長しつつある。

●大学発ベンチャーを創業

―バイオイオントロニクスという言葉は聞き慣れませんが、どういうものなのでしょうか。
三宅 バイオイオントロニクスは造語で、新しい分野を提唱しています。元々私はシリコン半導体技術を使ったバイオ応用で博士の学位を取得したのですが、その時に生体とデバイスにおいてイオン信号の計測と制御が重要だと気付きました。エレクトロニクスが電子、イオニクスがイオンの動きを対象にしているのに対してイオントロニクスは電子とイオン双方を扱います。生体と触れる環境で利用する場合には製品に親和性が求められますが、これを実現するのがバイオイオントロニクスです。具現化する目的で2021年にスタートアップ企業のハインツテック鰍学研都市で創業しましたが、もう一つ新たな事業化も検討しています。

―スタートアップではどのような製品開発を行っているのでしょうか。
三宅 研究室で開発した技術シーズを事業化し、細胞を扱う企業向けに細胞加工技術を提供しています。具体的には5〜10マイクロメートルの細胞一つあたりに数本〜数十本の微細な針を刺すことで細胞への物質導入、細胞からの物質抽出を実現します。ハインツテック鰍ナはナノチューブ薄膜と注射器(スタンプ)を開発、製造しています。もう一つの取り組みとしては緑内障患者向けに開発したスマートコンタクトレンズがあります。今や60歳以上の10人に1人が罹患していると言われる緑内障ですが残念ながら治療法がなく、早期発見で進行を遅らせているのが実情です。治療には目薬が欠かせませんが、痛みの症状がないため、点眼行為を止めてしまうなど課題が多いのです。今開発を進めるスマートコンタクトレンズは生体信号(主に眼圧)を感知、信号を送ることで目薬のさし忘れなどを防ぎます。

●バイオ系人材を集める仕組み必用

―取り組みは早稲田大学が若手研究者を支援する「PI飛躍プログラム」に採択されました。
三宅 基礎研究には時間がかかります。一方で研究室の予算には限りがありますから、3年間の期限付きではありますが大学がサポートしてくれるのはありがたいです。

―学研都市で研究を続ける意義、また学研都市の課題をどう捉えていますか。
三宅 学研都市には共同研究開発センターという半導体製造装置を利用できるクリーンルーム施設があり、それを利用させていただき助かっています。また産学をつなぐ北九州産業学術推進機構(FAIS)とその拠点施設があり、北九州市からはスタートアップに対する支援を受けることもできます。一方課題としては、他県や他都市と比べるとバイオ系に関する支援が不足していると感じます。特に地域の人材不足は喫緊の課題です。ベンチャー企業は1社ですべてをまかなうことはできません。ヒト・モノ・仕組み(政策)をうまくこの地に集めることができる取り組みが必要だと感じています。

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【プロフィール】東北大学の助教時代、東日本大震災を経験した。その後米国留学を経て北九州に移り住んでからは、バイオイオントロニクスをベースに矢継ぎ早に成果を発表し注目を浴びている。米国時代に授かった一人息子も小学生に成長した。多忙な日々だが、趣味のスノーボードを楽しむため、年に1度は家族で北海道のニセコ町を訪れる。1981年生まれ、大阪市出身。

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