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櫻井 和朗 教授

パワエレで脱炭素社会を実現

九州工業大学大学院 生命体工学研究科 生体機能応用工学専攻
大村 一郎教授、工学博士

 2050年に温室効果ガス排出量実質ゼロにする世界的な取り組み、いわゆるカーボンニュートラルに向けてさまざまな技術開発が進めてられている。二酸化炭素(CO2)排出量の大幅な削減が避けられない中で、欠かせない技術の一つがパワーエレクトロニクス(パワエレ)とパワー半導体といえる。九州工業大学大学院生命体工学研究科生体機能応用工学専攻の大村一郎教授は北九州学術研究都市で複数の企業と連携しながらパワーエレクトロニクス技術による脱炭素社会実現を目指している。

●高電圧・大電流を制御

―研究内容を教えて下さい。
大村 カーボンニュートラルの実現に向けて、その目標になくてはならない技術を研究しています。具体的には省エネやCO2削減を加速するパワーエレクトロニクスとパワー半導体の研究です。これらの技術は身近なところではスマートフォンの充電器やエアコン、電気自動車(EV)、風力・太陽光発電、送電などに応用されており、世界的に注目されてきています。

―市場規模が大きそうですが、半導体は日本が競争力を失って久しいです。
大村 今や電気製品でパワー半導体が使われていない製品は電気ストーブや電気ポットくらいです。世界の市場規模は10年後には10兆円になるとも予想されています。世界に先駆けて日本が開発したIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)では長い間世界をリードしています。このデバイスは700系新幹線の電力変換装置に使われており、かつての0系と比較して約30%の省エネを実現しています。また最近では北海道―本州間の直流送電(300メガワット)の設備に使われるなど用途が広がっています。今後も日本が世界をリードすると思います。

―研究の成果が社会に還元できそうです。
大村 パワー半導体は電気の流れを効率よくコントロールできるので、電気自動車のモータとバッテリーの間や、コンセントとスマホの間の回路に用いることなどで電気の無駄を減らすことができます。さらにヒートポンプを用いたエアコンではパワー半導体を用いることで性能が上がり、30年前の製品の3分の1程度にまで省エネされています。CO2削減の目玉技術です。直流送電の導入により北海道の風力発電エネルギーを九州で使うなど、広域で電力の融通が可能になり再生可能エネルギー有効利用が可能になります。

●企業で活躍できる人材の輩出を目指しています

―教育ではどういう点に力を入れていますか。
大村 パワー半導体材料にはガリウムナイトライドなど次世代材料がありますが、学生の研究テーマは量産性の高いシリコンデバイスを中心に据えています。シリコンデバイスの研究を通じて、材料からデバイス設計や信頼性まで幅広い知識と経験を積んでもらいたいと思っています。

―北九州市は九州最大の産業都市です。この地で研究する意義をどうお考えですか。
大村 北九州市には独自の技術を持った企業が多く産学連携のチャンスがあります。また研究室がある学術研究都市は研究に専念できる環境が整っていると感じます。北九州市は環境未来都市に選定され、脱炭素の取り組みを積極的に進めていますから、産業都市を支えるパワエレ技術をこれからも探っていきたいと思っています。

【プロフィール】 大阪大学大学院修了後、システムエンジニア(SE)として東芝に入社。プログラマとして黎明期の半導体シミュレータ開発に携わった。パワー半導体研究者時代には会社の留学制度を利用してスイス連邦工科大学に赴くなど、この分野での第一人者となる。大学時代は学内のオーケストラに所属、最近は篠笛を通じて地域のお祭りにも参加している。1961年生まれ、岩手県出身。

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