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櫻井 和朗 教授

日本発のワクチン開発を夢見て

北九州市立大学 環境技術研究所教授、先制医療工学研究センター長
櫻井 和朗教授

 世界中で猛威を奮う新型コロナウイルス感染症は、2023年に入っても収束の気配が見えない。この間海外では複数のワクチンが市場に供給されたが、日本発のワクチンはいまだ供給されていない。北九州市立大学の櫻井和朗教授はワクチンに欠かせないドラッグ・デリバリー・システム(DDS=薬剤送達システム)の研究を学研都市で行っている。夢は日本発の効果的で安全なワクチンの安定供給だ。

●科学技術振興機構への出向が転機

―研究内容を教えて下さい。
櫻井 水に溶けず飲みにくい薬や不安定で分解されにくい薬、さらには細胞内の特定の場所に届ける必要がある薬などを、ナノサイズの大きさのカプセルに包んで送り届けることを目指した研究を進めています。DDSと呼ばれますが、DDS粒子の化学的な設計や、その粒子をX線や顕微鏡を使って物理的に解析したり、細胞やマウスを使った生理活性化研究なども行っています。分かりやすく言うとガンなどに対処する特殊な薬やワクチンの効果を高める化学的設計や評価です。

―研究を始めた経緯はどのようなものだったのでしょうか。
櫻井 大阪大学大学院修士課程修了後に旧鐘紡に入社し、眼鏡やカメラ用レンズに利用する光学用ポリエステル樹脂の開発を行っていました。ただ鐘紡が経営危機に陥ったことで研究を続けることが難しくなり、新海征治先生(現九州大学高等研究院特別主幹教授)がプロジェクトリーダーを務めていた国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の分子転写プロジェクトに出向することになりました。その後は縁あって国武豊喜先生(現九州大学高等研究院特別主幹教授、元北九州市立大学副学長、前北九州産業学術推進機構理事長)の指導も受けることができ、両先生のおかげで超分子化学と北九州市立大学での研究の道が開かれました。

●健康長寿社会に求められる技術

―コロナ禍で注目されています。
櫻井 新型コロナ流行前からワクチンやワクチンの働きを高めるためのDDS研究を行ってきましたが、コロナでよりその価値が高まったと考えています。ワクチンの効果を高めるアジュバントや、ガン細胞を抑制するアンチセンスなどの研究ですが、これらの取り組みが成功すれば日本発のワクチンが開発できます。感染症だけではありません。ワクチンは成人病や認知症にも効果があるといわれているので、DDS技術は安全・安心、健康長寿社会に求められていると考えられます。現在はバイオベンチャーのNapaJen Pharma(東京都小金井市)で実用化を目指しています。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の事業に採択された取り組みが本年から始まるので、このチャンスを生かし、5年以内に実用化(フェーズ3)にこぎ着けたいと思っています。

―北九州市は製造業の街ですが、この地で研究開発を続ける意義をどう捉えていますか。
櫻井 医薬品研究は長い時間がかかります。研究開発に関してはこの地でなくてはならないという場所はないのですが、北九州市は新産業創出に理解がある街です。これまでも研究所を建てていただけるなど多大な応援をいただき感謝しています。恩返しというわけではないですが、当地初のベンチャーを世界に向けて発信していきたいと考えています。本市はモノづくりの街としてこれまで重厚長大産業が盛んでしたが、これから医薬などの知的集約型産業を興して行けば、若い人も集まり活性化するのではないでしょうか。

【プロフィール】 2001年(平13)の北九州学術研究都市開設以来、20年に渡り学研都市の発展に尽力してきた。新型コロナで今まで以上にDDSの有用性が叫ばれるなか、研究開発に熱が入る。自宅は兵庫県姫路市で単身赴任生活は20年に及ぶが、北九州の生活が楽しくてあまり苦にならないと笑う。グラベルバイクが好きでこれまで北海道の3分の2を走破した。次の大型連休は残り3分の1を走り、北海道一周を実現させるつもりだ。1958年生まれ、岐阜県出身。

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