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池橋 民雄准教授

マテリアル工学からAIロボットの進化を目指す

九州工業大学大学院生命体工学研究科人間知能システム工学専攻
ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター長
田中 啓文教授、工学博士

 主に学生が制作するロボットの性能を競う「ロボカップ世界大会」で3連覇を果たすなど、九州工業大学のロボット技術は高い評価を得ている。中でも内蔵する人工知能(AI)の技術は、国内のみならず世界のトップを走っている。九工大は研究を主導する「ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター」を大学の4つの「先端基幹研究センター」の1つに位置付け、次世代のAIシステム実現を目指している。

●ドラえもんを現実に

―大阪大学理学研究科などでナノカーボンエレクトロニクスを研究されていたと伺いました。
田中 早稲田大学で修士、大阪大学で博士学位を取得しました。強磁性のナノ結晶構造と磁性の研究を行っており、生体信号再現などを材料工学ベースで研究していたことが、九工大の生命体工学研究科脳情報専攻(現人間知能システム工学専攻)の研究分野とマッチしていたようで、教授として採用していただきました。

―研究内容を詳しく教えていただけますか。
田中 一言でいうとAIシステムの省エネ化を目指しています。現在のAIはほぼソフトウェアで動いていますが、コンピューターが使用する電力は膨大で、使えば使うほど電力を消費します。AIを人間の脳と同程度に働かせるためにはスーパーコンピューター並みの電力が必要で、これではなかなか一般に普及しません。ドラえもんはいつも頑張っていますが、そもそも電力はどうしているのかという疑問がありますよね。私はこの電力を軽減するために材料工学というハードウェアからアプローチしようと考えています。簡単に言うと物質をナノレベルまで小さくするとそれまでにない性質が出現します。その材料を組み合わせると、材料自身が知能を持つように振る舞うことがあります。「マテリアル知能」と呼ぶのですが、この研究を通じて消費エネルギーを軽減する新しいデバイス開発を目指しています。

●学研都市を国際拠点に

―夢のような技術ですが実現可能なのでしょうか。
田中 すでに私がセンター長を兼ねる「九州工業大学ニューロモルフィックAIハードウェア研究センター」を学研都市に開設し、田向権教授らと連携してカーボンナノチューブ(CNT)などでネットワーク構造を作り、AIの情報処理を再現することに成功しました。AIのニューラルネットワークモデルの一種であるリザバー演算を実行しており、ロボットハンドに実装して物をつかんだ情報から物体を推定する取り組みが進んでいます。この技術は実際にロボカップで使用したロボットに搭載して活躍しました。実験ではソフトウェアのみで行うリザバー演算とほぼ同等の識別精度が得られており、消費電力を抑える効果が期待できます。

―学研都市で最先端の研究を行う利点をどう捉えていますか。
田中 複数の大学が立地しているなど、学研都市はさまざまなものを受け入れる風土があると感じています。半導体研究のためのクリーンルームや、AIの研究センターがあるのも学研都市の利点です。広すぎず、研究者が近くにいて交流できるのもありがたい。一方で北九州市には中核となる産業が少ないのが課題です。元気な企業を育て、迎え入れる必要があると思います。我々が中心となり、学研都市をロボットやAI開発の国際拠点として形成していければいいですね。

―最後に研究者を目指す学生にメッセージをお願いします。
田中 次世代AIシステムの研究では最先端の取り組みを進めています。まだ新しい分野ですので国内では研究者も少ないので、一緒に新しい世界を作っていきましょう。

【プロフィール】 大阪府出身で九州には縁もゆかりもなく、家族も赴任には不安だったという。ただ住んでみると魚がおいしく、適度に都会で物価が安いとほれ込んだ。今はコロナ禍でなかなか楽しめないが、収束後にはまた九州各地の旅を楽しみにしている。家族は妻と2男1女。現在小学生の末娘が産まれてからは、急に子煩悩になってしまったと笑う。大阪府柏原市出身。

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