我々の周囲には光が溢れている。光は波長がおよそ380〜780ナノメートルの可視光(人間の目で見ることのできる光)を指すが、これに赤外線や紫外線、さらにX線など目に見えない領域を含めることもある。真空中では秒速30万キロメートルの速さで進み、情報の高速な伝達が不可欠な現代社会において必須の物質ともいえる。太陽光やLED光などさまざまな光が人間の生活を支えているが、最近の研究では生物の健康や、病気の発症にまで深く関わっていることが分かってきた。そしてその最先端の研究が学研都市で始まっている。
―光の研究をされていますが、どのような内容なのでしょうか。
福田 光は人間やその他の動物の生体リズム、植物の生育に影響します。人間をはじめとして動物の生体リズムが乱れると心身の不調につながります。さらに、生体リズムの乱れは発がん性の恐れがあることが国際がん研究機関でも認められていますので、最終的には寿命を縮めると考えられます。人工の照明はさまざまな波長(異なる色)の光で構成されています。動物や植物は、種類によって最も影響を受けやすい光が異なります。私の研究では光の明るさや色はそのままに、各波長の光の強さを調節することで人や動物の生体リズムを整えたり、植物の生育を促したりすることを目指しています。
―実現すれば夢のような話ですね。
福田 波長構成と呼ぶ光の成分を考えることで、明るさや色などを変えなくても人や動物への悪影響が少ない人工照明が製作できます。生体リズムを整えることは心身の健康状態を良くし、ガン発症の抑制や寿命の延伸につながると考えています。また植物に関しても、街灯の光が稲の生育に悪影響をもたらすことが報告されていますが、光の波長構成を検討することで、植物の生育と人間の生活が両立するような人工照明が可能になります。
―学生時代から光や色に興味を持たれていたのでしょうか。
福田 大学では住環境学研究室に所属しましたが、指導教官は光環境が専門でした。そのため、私も自然と光や色に興味を持つようになりました。修士課程では、住環境の中で光が空間の認知や色彩の好みにどう影響しているかについて研究しました。他大学で助手として勤めていた時に、現在の研究につながる光を感受する視細胞への刺激量をコントロールする新しい手法についての研究を行い、研究成果を発表して博士号を取得しました。
―海外でも光の研究をされましたか。
福田 香港で研究助手として経験させてもらいました。照明の世界では、これからはグローバルに研究する必要性を感じていましたので、いい経験となりました。2年間助手を勤めた後は自らの視野を広げる目的でホテルスタッフとして見聞も広めました。その後は日本のいくつかの大学で勤務しましたが、地元に近い北九州市で働きたいという思いが強くなり、幸運にも北九州市立大学に採用していただけることになりました。
―北九州市や学研都市の印象はいかがですか。また今後の展望を教えて下さい。
福田 北九州市は高度成長期における環境の悪化から再生した歴史があります。人や植物に悪影響を及ぼさないような光環境について研究することは、環境を悪化させないことにもつながります。学研都市はアカデミックな雰囲気で研究に集中できる環境です。複数の大学から構成されていますので共同研究が進めやすく、研究の幅が広がりやすいメリットもあります。自然環境にも恵まれていますし、研究や教育を通じて北九州市の魅力を発信していきたいと思っています。照明の研究は比較的早く成果が形になりますので、今後は人間、動物、植物にとって害とならない光環境の提案や照明の開発など社会貢献につなげていきたいと考えています。