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田向 進准教授

AIで夢の実現を目指す

九州工業大学大学院生命体工学研究科人間知能システム工学専攻
田向 権准教授

 1968年公開の映画「2001年宇宙の旅」は、宇宙船に搭載した人工知能(AI)「HAL9000」の反乱が衝撃的だった。それから半世紀を経た現在AIはいまだ黎明期にあり、幸か不幸か人類に反旗を翻すほどの知能を得るに至っていない。九州工業大学大学院生命体工学研究科の田向権准教授は、自らの脳で考えて行動するAIの実現を目指している。人類に反逆するのではなく、人に寄り添い、生活を豊かにするAIの登場はすぐ先の未来にある。

●ロボットが自ら考え、動く

―九州工業大学大学院の生命体工学研究科1期生とうかがいました。
田向 佐世保工業高等専門学校電子制御工学科、宮崎大学工学部情報システム工学科を経て九州工業大の生命体工学研究科に入学しました。その後東京農工大で画像処理などの研究を行い、母校に研究室(人間知能システム工学専攻)を設立しました。

―現在の研究内容を教えて下さい。
田向 脳型計算機を研究しています。自動車やロボットなど、社会に役立つ機械のAI研究です。ロボットを例に挙げると、今のロボットはあらかじめプログラムされた決まった動作しかできません。動物のように自分の頭で考えて行動したり感情を表現することができないのです。私の研究室が目指すのは、これまでの経験や感情を自ら考え、行動する脳型計算機システムの実現です。これが実現できればロボットは人間と共生することが可能になりますし、自動車も今よりはるかに進化した自動運転が可能になります。

―夢のような話しですが実現できるのでしょうか。
田向 ビッグデータやディープラーニングで可能になります。今我々はスマートフォンが手放せませんが、壊れたり古くなると当たり前のように機種変更しますが、一方で犬や猫といったペットは簡単に手放しませんよね。この差は機械と動物という以前に、動物には「情動」という感情があるからです。経験などのエピソードが積み重なることで家族の思い出が増えていく。ロボットにもビッグデータやディープラーニングによってこの情動を植え付けることができれば、ペット同様に家族の大切な存在となるはずです。

ロボットに搭載したAIが、おもちゃを片付ける場所を選別する。1)ロボットに搭載したAIが、おもちゃを片付ける場所を選別する。

●ロボット競技会で成果続く

―成果は上がっているのでしょうか。
田向 サービス向けロボットを「Hibikino-Musashi@Home」の名称で開発し、2013年ごろから国際競技会に挑んでいます。18年のワールド・ロボット・サミット(WRS)サービス部門では優勝を果たすなど実績を上げています。また自動車分野では我々が開発したFPGA(プログラミング可能な集積回路)を使った自動運転実験車両を自動車メーカーと共同研究しました。今年4月には学内に「ニューロモルフィック(脳模倣型)AIハードウエアセンター」も開設するなど、素材レベルから全く新しい脳型計算機の仕組み作りが進んでいます。

―未来社会の実現に尽力されていますね。地域や学生の皆さんにメッセージをお願いします。
田向 地方の大学ではありますが、国際的にトップレベルでの活動を維持していますので、世界最先端の研究に興味がある人は是非挑戦してほしいです。優秀な学生はどうしても大手企業に就職して技術者の道を歩みますが、私の研究室で博士後期課程に進む人にはリサーチアシスタントをお願いして、給料もお支払いしています。大学では珍しい取り組みだとは思いますが、これは学生の経済支援のほかに、一人でも多くの日本人博士を育てたいという思いもあります。そうすることで優秀な人材がこの地に定着しますし、北九州や九州の地で起業する人材も多く出てくるだろうと期待もしています。





AIと画像処理技術で歩行者を認識している。2)AIと画像処理技術で歩行者を認識している。
【プロフィール】 AIの研究者は国内外の大学だけでなく、企業でも奪い合いが起きている。それだけ注目されている分野といえよう。空想の世界と思われていた自律ロボットや自動運転技術が現実のものになってきた今、田向教授の研究にも期待が高まる。独身のため「いつも研究室に入り浸っている」と実生活もマシンのようだが、実は休日はスポーツクラブで汗を流し、夜は好きなお酒を飲んでリラックスする。1978年生まれ、長崎県出身。

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