地球上に光は溢れている。光は命を育み、また社会を明るく照らしてくれる。一方でその光がどれだけ産業に貢献しているかはあまり知られていない。情報化社会の進歩で光は電気に変わる有力なツールへと変貌を遂げた。今後もデータ通信の低消費電力化や光ニューラルネットワーク技術を使った高性能コンピュータなど、光技術への期待は高まるばかりだ。
―前職はNTTと伺っています。
硴塚
NTTの厚木研究開発センタ(現先端集積デバイス研究所)で入社以来、発光・変調デバイスの光通信応用に関する研究開発を行ってきました。インジウムやガリウム、ヒ素、リンといった化合物半導体の発光制御の理論研究から始めて、これらの材料を用いた光ファイバー通信用の光増幅器や光送信器などの部品研究に携わってきました。その後はシリコン基板上に集積した短距離光通信用光源や、オンチップ光通信に向けたナノ構造レーザーなどの研究開発も行いました。フォトニック結晶レーザーといって、発振動作に必要な電流が5マイクロアンペア以下と低く、世界で最も低い消費エネルギーによる情報伝送を達成したレーザです。
―光通信は現代社会で随分一般的になりましたが、今後も適用領域は広がっていくのでしょうか。
硴塚
情報通信の量の拡大はとどまることを知りません。情報が増えるにつれて環境負荷の低いデータ伝送技術や情報処理技術が求められます。もともと光通信は長距離のテレコム用途に用いられてきましたが、データセンター向けなどにLANやラック間へと用途が広がり、今後はチップ間やチップ内への応用も期待されています。オンボードや、オンチップのCPU(中央演算処理装置)内での利用です。
― 一般的に少し分かりにくい内容です。もう少し教えて頂けますか。
硴塚 光ファイバー通信では光ファイバーケーブルが光信号の通り道になっているわけですが、これを小型化して、光の配線や回路として機器の中に組み込んでいくイメージです。通信量の増大に伴い、データセンターの消費電力が増大しています。これらの消費電力の多くがサーバやルータなどの情報通信機器や機器の冷却に使わ
れているため、機器の消費電力が下がればシステムの低消費電力化や発熱の抑制に繋がり、環境にも優しい情報通信が実現できるのです。データ通信はIT機器の消費電力の多くを占めていますので、現在電気配線で行われている通信を、エネルギーコストが低く大容量伝送に優れた光通信で行う技術が期待されています。
―4月に早稲田大学情報生産システム研究科准教授に就任されました。研究や学生の指導については情報処理技術開発が中心になるのでしょうか。
硴塚 就任したばかりのためこれから具体化させていくことになりますが、光回路用半導体レーザーの低消費電力化と高性能化、および光通信システムや情報処理回路の提案に取り組んでいきます。情報の大容量ニーズは止むことがありません。今後さらに複雑化するであろう情報通信の発展に寄与したいと思っています。また光源技術の適用分野は多岐に亘りますので、積極的な外部連携で応用先を探っていきたいです。北九州学研都市には多くの大学が立地し、半導体や光関連に携わる研究者も多くいらっしゃいますので、将来的に市内企業との連携で事業化できる技術開発も進めたいと思っています。学生には地道な研究開発が社会を支えてきたことと、そして何より光技術の魅力と可能性を伝えていきたいですね。