石油などの化石燃料は有限で、増え続ける地球人口を支え続けることはできない。また地球温暖化の原因物質である二酸化炭素(CO2)を抑えるためにも、再生可能エネルギーの確保は人類存続のために達成しなければならない課題と言える。最も有用な資源は太陽光エネルギーだが、技術・コスト両面から本格的普及にいたるにはまだ長い時間がかかると言われている。北九州市立大学国際環境工学部エネルギー循環化学科の天野史章准教授は、北九州学術研究都市で課題克服に挑んでいる。
―太陽光エネルギーの活用は世界中で研究が進んでいます。天野准教授の研究はどのようなものでしょうか。
天野 太陽光はわずか1時間で世界の年間消費量をまかなえるほど膨大なエネルギーを持っています。植物は太陽光に含まれる可視光を使って水から電子を取り出し、二酸化炭素から糖類を製造する光合成を行っています。これにならい、太陽光を使って燃料生産を行う人工的なエネルギー変換システムである「人工光合成」を研究しています。これからのエネルギーや地球環境問題を直接解決する長期的視野に立った研究と言えます。
―具体的にはどのようなことが実現可能なのでしょうか。
天野 太陽光だけを使って水から水素をつくると言えば分かりやすいでしょうか。酸化チタン(TiO2)などの光触媒と呼ばれる材料を上手にデザインすると、光エネルギーを利用して水を水素と酸素に分解できるようになります。エネルギー問題を解決するための究極的な夢の反応であり、太陽光に多く含まれる可視光を活用するための研究開発が世界中で進められています。30年、50年後の低炭素社会の実用に向けたスケールの大きなテーマですが、最近になって光触媒の性能が飛躍的に向上してきました。光触媒による水分解反応は水素を圧倒的に安価に供給することができるため、燃料電池を使った水素社会を実現するために欠かせない技術です。
―光触媒は一時期ブームを巻き起こしましたね。今後の展望はどうでしょうか。
天野 住宅用設備などの環境浄化を目的としたこれまでの光触媒は、技術的な問題から十分な効果を発揮できませんでした。私たちが研究開発している新しい光触媒は紫外線だけでなく可視光も活用できるため室内の蛍光灯などの自然光のもとでも効果が期待できます。これまで光触媒として役に立たないと思われていた「ルチル型」の酸化チタンを水素処理して還元状態にすると活性化されることを見つけ、この技術の実用化を目指しています。省エネルギーの環境浄化技術はこれからの社会に欠かせませんので、近い将来の実用化に期待してください。
―北九州市は環境問題に力を入れており、学術研究都市やここに立地する大学で学ぶ多くの学生の意識も高いと言われています。
天野 技術開発を通じて市内企業の発展に貢献できる人材を育成したいという思いがあります。最近はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などが人気で、環境やエネルギーの問題を解決できる「化学」に関心の深い学生が少なくなっているようです。未来のあるべき社会を考えると省エネルギーや創エネルギーのための革新的な材料や触媒の開発がもっとも重要な研究課題であることは間違いありません。環境浄化や人工光合成といった低炭素化技術で北九州発の大きな成果をあげると同時に、優秀な化学技術者を育てて地域に送り出していきたいですね。