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佐藤 寧 教授

「地域貢献」の思い胸に 生体センサーの事業化を本格始動

九州工業大学 大学院生命体工学研究科 イノベーション推進機構若松分室
佐藤 寧 教授

大阪・梅田や長野県軽井沢町のスキーバス転落など、自動車の暴走による大事故が相次いでいる。原因は梅田が大動脈解離、軽井沢は居眠りまたは心筋梗塞と言われており、いずれも運転手が正常な状態でハンドルを握れていなかったことにある。自動車の自動運転実現が間近に迫る中、運転者の生体情報を車両が正確に把握できればこうした大事故の多くを未然に防ぐことができる。そんな夢の技術が学研都市で花開きつつある。

安く供給できるのが最大の強み

―非接触生体センサーを研究開発されています。どのような技術ですか。
佐藤 200メガヘルツのラジオ周波数電波を使って、非接触で心拍や呼吸、体動といった人の生体信号を検知する九州工業大学オリジナルの技術です。高齢者の見守りセンサーとして開発に着手したのですが、自動車の自動運転技術の発達に伴って、最近では安全運転支援のドライバーモニタリングに利用しようという動きが自動車各社で広がりつつあります。

―どういった原理なのですか。
佐藤 人の体はほとんどが水分でできていますから、電波を多少吸収します。吸収の度合いは液体の密度により変化し、心臓がドクンと血液を送り出した瞬間とその後では微妙に異なります。このわずかな変化を計測し、生体が今どういう状況にあるのかを観察します。心拍が一定なら問題ないのですが、興奮しているあるいは寝ている、意識がないなどの状態が分かります。センサーには独自に開発した雑音除去技術を採用し、計測に必要な電波のみを抽出することができます。これらは複雑なアルゴリズム処理を要しますが、一個あたり100円〜200円の安価なLSIに処理させることで、システム全体の価格を1000円程度に抑えました。安く供給できる点が、我々の技術の最大の強みと言えます。

―生体の異常を非接触で検知する技術は、これまで世の中になかったのでしょうか。
佐藤 ミリ波やマイクロ波を使用したドップラーセンサーがあります。すでに普及している自動車の衝突防止システム等に利用されていますが、金属部品に囲まれた車内では電波が反射しすぎて、生体情報の正確な計測には不向きですし、価格も一個あたり2万5000円程度と高額です。我々が開発した生体センサーは三菱電機グループでの採用が決まり、昨年の「東京モーターショー」で、安全運転支援を支える主要技術の一つとして発表されました。

開発の目的は「地域貢献」

―高齢者向けにはどのようなサービスが行えるのでしょう。
佐藤 目覚まし時計型のセンサーを室内に複数個置き、見守ります。高齢者が倒れて起き上がれないとか、意識がないといった異常が起きた場合は、登録先の家族にメールで知らせます。一般家庭のほか介護施設でも利用が可能です。見守りサービスを提供する企業も決まり、来春のサービス開始を目指しています。

―今後の予定を教えて下さい。
佐藤 事業化を本格始動するため、学研都市の技術開発交流センターに4月1日付で新会社「ひびきの電子」を設立します。日本アレフ(東京都港区)にこのセンサーの量産を委託して、デバイスとユニット双方で初年度数億円を販売する計画です。大切なことは、ひびきの電子の売上の一部が大学に還元され、次の研究開発資金に生かされるということ。学生が企業との商品開発を間近に経験できること。また、地域に新たな雇用が生まれるということです。私は常に「地域貢献」を心掛けています。研究成果をただ売るだけでなく、大学や企業、学生を巻き込んで、地域の産業の強みを生かし、広く世の中に発信していけるような会社にしていきたいと考えています。

【プロフィール】プロのミュージシャンとして活躍後、米国に渡りミサイル用レーザー装置の開発に携わった異色の経歴を持つ。帰国後はソニーやケンウッドなど大手電機メーカーでMDやゲーム機用LSI等を次々と開発した。2004年九州工業大学に移籍後も、キットヒット(北九州市若松区)とAIテクノロジー(福岡市早良区)の大学発ベンチャー2社を立ち上げるなど、おう盛なバイタリティーは衰え知らずだ。1959年生まれ、東京都出身。

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