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黎 暁紅 教授・今井 裕之 講師

バイオマス活用へ高機能触媒と反応プロセスの開発に挑む

北九州市立大学 国際環境工学部 エネルギー循環化学科
黎 暁紅 教授(写真左) 今井 裕之 講師(同右)

バイオマス資源は、再生可能な自然エネルギーの中でも特に賦存量(※)が大きく、カーボンニュートラルな特性が注目される一方、資源調達コストの高さや反応性の低さがネックとなり、思うように利用が進まないジレンマを抱えている。バイオマスの利用拡大には変換効率の向上が欠かせず、高機能触媒と反応プロセスの開発がそのカギを握っているようだ。
※ある資源について、理論的に導き出された総量。

二酸化炭素は大切なカーボン資源(黎)

―お二人の研究内容を分かりやすく教えてください。
 二人に共通しているのは、バイオマスを高付加価値な燃料や化学品原料に変えて有効活用しましょうということですが、そのプロセスとアウトプットは異なります。私が取り組んでいる研究の一つは、二酸化炭素と水素を反応させて、メタノール経由炭化水素へと効率よく変換する触媒反応プロセスの開発(資料@,A)です。二酸化炭素は温暖化ガスとして悪く扱われていますが、これを大切な炭素資源と捉え直して、石油に変わるクリーンな燃料を創出するのが狙いです。
今井 私は固体触媒の研究開発をメインにやってきて、その中でゼオライトと呼ばれる多孔質材料に着目しました。これを金属と掛け合わせて、バイオマス変換で高いパフォーマンスを発揮する新たな機能ハイブリッド型触媒の開発に取り組んでいます。機能ハイブリッド型触媒を用いてバイオエタノールをブタジエンというゴムの原料に効率よく変換する研究(資料B)は、FAISの平成27年度助成事業に採択されました。また、植物油を燃焼効率の高い燃料に変える研究では、かなりマイルドな条件下でも効率よく変換できる高機能触媒の開発に取り組んでいます。

―天然ガスを液体燃料に変える触媒の開発にも取り組んでいますね。
 シェールガスに代表される天然ガスが近年注目されていますが、主成分であるメタンを液体燃料に変換することで輸送コストは大幅に低下できます。メタンを一酸化炭素と水素の混合物(合成ガス)に転換し、合成ガスから直鎖炭化水素を合成するプロセスにおいて、炭化水素の生産性を高めるためには、一酸化炭素の転化率が高い(=反応効率が高い)触媒の開発が必要です。私たちが開発したゾルゲル法による「エッグシェル型触媒」は、一酸化炭素の転化率を高めると同時に、メタンの副次的な生成を従来型の触媒の半分以下に抑えました。さらに前駆体を含む溶液の粘性が高いため、活

バイオエタノールを原料とした化学品製造のための複合機能触媒の開発イメージ▲資料B_バイオエタノールを原料とした化学品製造のための複合機能触媒の開発イメージ

性金属が担体の内部に侵入しづらく、活性状態が長時間続きます。耐久性にも優れた触媒と言えます。

人類に有益な化学反応のデザインを目指す(今井)

―今後の目標を教えてください。
 東南アジアではパーム油の廃液処理過程で温室効果ガスのメタンが大量に発生して問題になっていますが、有効利用しようにも分散しているため採算が合いません。そこで、メタンを現地で液化する研究に取り組みます。メタノールにして輸送し、一カ所に集めれば有用な資源に生まれ変わるはずです。
今井 私が目指すのは、固体触媒の開発を通じて、人類にとって有用・有益である化学反応をデザインすることです。化学反応の途中で廃棄物を出さないとか、無益であると思われた材料を有益な製品に変える反応もあります。いろいろな原料から必要なもの・欲しいものだけを作り出すという、ある意味で「究極のエゴイズム」を目指していると言えますね。

―最後に北九州市の印象を。
 中国・大連市生まれの私は、両市が古くから友好都市の関係にあったことで親しみを感じていました。北九州市は住みやすい街です。大学の開設準備段階からこちらに来て、当時は長靴をはいて歩き回っていましたが、今思うと本当に立派な学園都市になりました(笑)。
今井 北九州市に来て4年目ですが、こちらの人の郷土愛の強さには、今でも驚かされます。学生も地元志向が強い傾向にありますが、若いうちはもっと外に目を向けてほしいと思っています。

CO2の水素還元による炭化水素への変換のための触媒反応プロセスの開発(研究構想) CO2の水素還元による炭化水素への変換のための触媒反応プロセスの開発(成果)▲資料@及び資料A_CO2の水素還元による炭化水素への変換のための触媒反応プロセスの開発(研究構想と成果)
【プロフィール】
黎 暁紅(り・しゃおほん)=1996年工学博士号取得(東京大学)、1997年NEDO研究員、2000年北九州市立大学助教授を経て、2007年教授。
今井 裕之(いまい・ひろゆき)=2004年北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程修了、2008年東京工業大学助教、同年環境科学博士号取得(北海道大学)を経て、2012年北九州市立大学講師。

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