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巽  宏平 教授

社会に役立つ研究で、HV自動車の小型化に取り組む

早稲田大学 大学院情報生産システム研究科 生産システム分野
巽 宏平教授

トヨタ自動車が生産するハイブリッド(HV)自動車の世界販売台数が700万台を突破するなど、今やHV自動車は日本の自動車産業の象徴的存在といえる。だがその歴史は浅く、技術的な課題も多い。その一つがシステムの小型化だ。それを解くカギはパワーエレクトロニクス(パワエレ)と呼ばれる電力を効率良く制御する半導体にある。先端材料を使ったパワエレの開発が北九州学術研究都市で進められており、北九州市新成長戦略に掲げる「次世代自動車産業拠点の形成」に貢献する大型プロジェクトとして注目されている。

パワエレは省エネのキーテクノロジー

―内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)/次世代パワーエレクトロニクス」に研究開発の取り組みが採択されました。
 HV自動車のインバータ冷却系とエンジン冷却系の共用化、インバータシステムを小型化するためのSiC(炭化ケイ素/シリコンカーバイド)デバイスを使ったモジュールの実装技術の研究開発を進めています。研究グループには、早稲田大学大学院、九州工業大学、トヨタ自動車、デンソー、三井ハイテック、ウォルツ(福岡市早良区)、北九州産業学術推進機構(FAIS)が参画し、私が研究責任者を務めています。

―パワエレやSiCといった用語はよく耳にするのですが、一般的にはなじみがありません。
 パワエレは、直流から交流、交流から直流への変換、電圧や電流を効率良く制御する技術で、中でもSiCやGaN(窒化ガリウム)等の新材料を使った次世代パワエレは、省エネのキーテクノロジーとして注目を集めています。SiCには、従来のシリコンの限界値を超える大電流を流せるほか、200度C以上の高温環境下に耐えるという特徴があります。このためHV自動車などのモーター駆動を制御するパワーコントロールユニットに利用できれば、耐熱化・小型化の双方に有効です。

―旧新日本製鉄(現新日鉄住金)勤務時はSiCの基板開発で知られていました。
 早稲田大学の修士課程を修了した後、ドイツ・アーヘン工科大学で金属物理分野の学位を取得しました。新日鉄入社後は『先端技術研究所』で鉄の格子欠陥、結晶粒界、水素による脆性破壊などの研究を行いました。やがて鉄冷えと同時に新素材ブームが起き、新日鉄もシリコンウエハーやエレクトロニクスなどの分野に参入しました。あまり知られていませんが、携帯電話などの情報通信端末に使用される鉛フリーはんだボール材料『LF35』や銅ボンディングワイヤ『EX1』など、新日鉄の研究所で開発されて業界標準となった実装関連のものは結構あります。08年にはSiC単結晶ウエハーの製造で『日経BP技術賞(機械システム部門)』を頂きました。ちなみに、その時の大賞は山中伸弥京都大学教授の『ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立』でした。

北九州は豊かな環境と技術開発の出口が魅力

―2010年に新日鉄を退社して、ここ北九州で教べんを取ることになりました。
 新日鉄時代から研究の成果が最終的にどのように使われるかを意識して取り組んできました。研究は社会の役に立つべきだという考えは大学に来ても変わりません。北九州はものづくり企業が数多く集積し、社会実装を出口とした技術開発に適した土地柄です。こうした地域の強みを活用すれば事業が育つ素地は十分あると思います。食べものはおいしく、地震は少なく、首都圏とは比較にならないほどの豊かな自然が魅力です。自由な発想はこのような環境がなければ産まれないでしょう。

―今後の予定を教えて下さい。
 平成26年度からの3年間でSiC耐熱モジュール実装技術の研究開発を進め、HVシステムそのものの小型化を目指します。また自動車だけでなく航空・宇宙や太陽熱・風力発電など、エネルギーデバイスの長寿命化のキーテクノロジーとして信頼性を高めて、社会に役立ち生活を豊かにする事業を実現させます。

【プロフィール】 関西出身で、東京やドイツにも長く住んだ巽教授だが「教員宿舎の裏山でキツツキが木をつつく音を部屋で聞いた時はビックリした」と、北九州の環境の良さにほれ込んでいる。最近は愛犬と一緒に住むため中古住宅を購入したとか。休日は夫人と2人で温泉巡りや山登りを楽しんでいる。アーヘン工科大学博士課程修了。1953年生まれ、大阪府出身。

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