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安井 英斉 教授 寺嶋 光春 講師

酸素の存在しない条件下で働く微生物に注目!
「嫌気法」が電子産業排水の処理スタイルを変えていきます

北九州市立大学 国際環境工学部
安井 英斉 教授 寺嶋 光春 講師

今回ご紹介していただける研究テーマは何ですか?

私たちの研究室では、「電子・半導体産業から排水される有機物の嫌気性微生物による処理」の研究を進めています。現在の主流とまったく逆な排水処理法で、メリットと活用が多く見込めるものです。

水処理の有機物を分解するプロセスの 省エネルギー化に貢献!

スマートフォンなどの液晶やパソコン・家電などに使われる電子部品の製造には、たくさんの水が使われており、その排水は化学物質などの不純物質が混ざり、汚れた状態になっています。川や湖沼・海といった公共水域の水環境を保全するためには、きれいな状態に処理する必要があります。また、水資源の確保を考慮して、これら処理水の再利用も行われている工場もあります。  私たちの研究は、こうした水処理の中で、特にエネルギーを消費する有機物を分解するプロセスの省エネルギー化に焦点をあてるものです。

嫌気性微生物を利用した水処理の研究を選択

研究に取り組む動機には、企業在籍時から電子・半導体産業の排水処理に関わっていたことが大きく働いています。従来から主流と呼ばれる排水処理技術は、排水の中に空気を送り込み、酸素によって酸化分解する「好気法」と呼ばれる方法で、微生物の働きが溶存酸素によって活発になり、水中の有機物を二酸化炭素などに分解するものです。この方法は、水中に空気を送り込むために多くの電気エネルギーを必要とし、処理としては簡単ですが、原理的に省エネルギー化は難しいものでした。

そこで、私たちは「好気法」とは別の方法を選択し、酸素の存在しない条件下で働く微生物の動きに注目しました。有機物をメタンガスと二酸化炭素に分解する「嫌気法」です。空気を送り込むエネルギーが不要になるばかりでなく、電気エネルギーが極めて少ないうえに、処理に伴って発生する汚泥が少なくなるメリットがあります。  嫌気法を水処理のスタンダードとすることができれば、省エネルギーや地球の温暖化防止に貢献できると思ったことが、本研究をスタートさせるきっかけになっています。

嫌気性分解に必須な希少微生物を 増やすことに成功

電子・半導体産業からの排水の中で特に分解が困難といわれているのが、本研究で対象としているTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)です。このTMAHを嫌気性分解する微生物はあまり知られていませんでしたが、本研究では、どこにでもある下水処理場の汚泥からこの微生物を増やすことに成功しました。下水処理場の汚泥中のこの微生物の存在比は0.0000005%であり、とても小さいものです。現在は一定の条件のもと、24時間365日体制でこの微生物を徹底管理しています。とてもデリケートな生き物なので、弱ったり死んだりしないように注視することが求められています。

最後に、今後の展望をお聞かせください

排水をはじめとした廃棄物処理は20世紀初頭にはじまる技術分野です。産業の発展にともない急速にニーズが拡大し、工場においても課題に対して的確に応えることが求められています。現在は好気法が主流ですが、排水処理システムの嫌気法が確立し、環境負荷を軽減する技術として、産業界で広く実用化されることが希望です。

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