私たちの研究室では、授業支援システム「Key Words Meeting(KWM)」の研究・開発を行っています。KWMとは、授業における「学生の反応の収集・評価および授業改善」といった一連の活動を支援するICTシステムです。毎回の授業内容が学生にどの程度伝わったかを調べる機能や、学生の理解内容に対して先生がそれぞれにコメントを出せる(フィードバックできる)機能などを備えています。すなわちKWMは、伝わっている過程を先生と学生が共に知るためのシステムといえます。
KWMシステムの開発のスタートは、約20年前のこと。「自分の授業が学生にどのように伝わっているのかを知りたい」と考え、授業後に「今日の授業で記憶に残ったキーワードは何ですか?」というアンケートを独自に取り始めたのがきっかけです。最初は紙ベースで行ってきましたが、現場の先生にとって導入しやすく、かつさまざまなメリットを持った支援ツールを提供するために、システムの開発を行ってきました。
私たちは、授業などの情報伝達活動で重要な要素は、KWMの頭文字にもなっている「キーワード」であると考えています。この伝える内容の「キーワード」を軸とした独自の手法を用いて、「先生が何を伝えようとしたのか」や「学生に何が伝わったのか」といった双方向の情報収集を行っています。
また、KWMには質問票調査を行う機能を組み込んでおり、授業開始前、終了後、授業終了後3ヶ月の時点などにおける学生の状況を調べることもできます。併せて、授業に関連した膨大なデータをもとに、授業達成度の定量的な評価に関する研究や、学生が入力した文字情報についての質的研究を行っています。
KWMの使用法はWEBにログインして先生・学生ともに情報を書き込むのですが、先生が学生に理解してほしいと望むポイントと学生が記憶したキーワードに開きがあることもしばしばです。印象に残ったキーワードがない、と書き込まれた日は正直落ち込みます(笑)。しかし、理解も誤解も関心も無関心もすべてオープンなのがKWM。だからこそコミュニケーション(Meeting)の重要性が増し、関係性が築かれていく、と確信しています。
KWMは多くの教育現場の方々の協力によって今でも成長し続けているシステムです。KWMをテーマに去年博士号を取得した栗島一博博士は、現場からの要求をWeb上で丁寧に表現してくれただけでなく、学生の立場からの提案もしてくれました。学内外からKWM稼働実験に参加してくれた仲間もいます。特に、私たちを信頼してKWMを導入してくれた、教育を愛する嘉麻市の小中学校の先生方にこの場を借りて深謝申し上げます。子供たちの学力向上にKWMが寄与できているならば、こんなにうれしいことはありません。
教育機関のみならず、ある情報を伝える場面は多々あります。指示報告などの企業活動への導入や広告効果の測定や調査、情報収集などにKWMを用いることもできます。手段・戦略に効果を発揮する切れ味のいいシステムだけに、扱いはより慎重に行いたいと思っています。
最後にこれは展望になりますが、国公立の学校にKWMを無償で配布できるようにしたい、と思っています。
KWMを通して集まったデータには、様々な活用方法があります。